PSYCHO-PASS サイコパス 新編集版

PSYCHO-PASS Sinners of the System

単なる再放送でも、2期前の復習ではなく、「新編集版」というだけあって、1期で綺麗に終わったはずの物語を、2期へ繋がるストーリーとして追加カットを加えて再編集したという点が、新編集版の評価点だと思う。
1期に対する感想はすでにこのブログで言い尽くしてしまっているので、ここでは新編集版を経て2期へ繋がる物語としての感想をザックリと。


まずは各話に追加された新規カットのおかげで、1期では希薄というか説明不足だった「狡噛と槙島の逃れられない宿命の対決感」がものすごく出たということ。
1期では「狡噛と槙島の宿命」は、それこそアニメ誌とかでそう言われているだけであって、本編を見ている限りでは、狡噛さんの一方的な片思いに槙島が面白がって付き合ったら本気になっちゃったよ…みたいな感じしかしなかったのに、追加カットで同時間軸の槙島の心情や内面が多く描かれたことで、「槙島も狡噛の存在を待っていた」ということが分かって、あぁ、互いに互いの存在に焦がれていたんだな、これは宿命の対決だったんだな、と1期より分かりやすくなった。
これは逆に槙島は最後までミステリアスでいて欲しかったという人には、槙島がどんどん小者化していく表現の仕方なので評価は分かれるかもしれないけど、私はこの同時間軸の槙島を描いたことは正解だったと思う。
1期では尺が足りなかったと言われればそれまでだけど、狡噛と槙島の対決って部分はアニメ誌等の製作陣の発言によって物語が補完されている部分が強くて、「常守朱の成長物語」だけで終わってしまった感が強かった。
しかし、新編集版で、その「狡噛と槙島の宿命の対決」部分が補完されたことによって、狡噛VS槙島の宿命の対決によって常守朱=2期主人公が成長/誕生した物語…という風に、物語の構成自体はいじってないにも関わらず見事に2期に繋げてきた。
…やるじゃねぇか、と。

シビュラ社会という蟲毒。そしてその中で戦う「怪物」たち。

新編集版が2期へ繋がる物語として浮き上がらせたのは、「怪物」は槙島聖護ひとりではなかった…ということ。
1期では「倒される怪物」だった槙島。しかし新編集版では、彼は免罪体質というイレギュラーたる「怪物」としてシビュラ社会が生み出したものだった。
そしてその「怪物を倒した勇者」だった狡噛慎也もまた、シビュラ社会が生み出した変異体たる「怪物」だった。
勇者が怪物を倒したのではなく、「怪物」同士が戦い、淘汰され、その中でまた新たな「怪物」が生み出され続ける物語。それがサイコパスという物語ではないのか…と、新編集版を見終わって私は思った。
つまり、シビュラシステムに支配された社会=蟲毒。その中で槙島や狡噛といった「怪物」が生まれ、戦い、より強い「怪物」が生き残る。
シビュラ社会(の『闇』の部分)を描くと、そんな物語ではないだろうか。
1期及び新編集版において生き残った「怪物」=狡噛慎也。しかし、自らの意志でシビュラ社会を逸脱した彼は最終回とともにこの物語から姿を消す。

狡噛慎也の『呪い』と常守朱の『業』。そして新たなる「怪物」。

槙島聖護は死に、狡噛慎也は物語から去った。
ならば、もう「怪物」はいないのか?
――――否。
先ほど私は、サイコパスという物語はシビュラ社会が「怪物」を生み出し続ける物語である、と言った。
新編集版が2期主人公誕生の物語とするならば、それは新たな「怪物」が誕生した物語でもあった。
常守朱である。
狡噛が槙島に出会わなければ「怪物」にならなかったように、朱もまた狡噛(と槙島)に出会わなければ「怪物」になることはなかったのだが、ふたりの人生がたとえ3ヶ月という短い時間であれ、しっかりと交錯してしまった結果、常守朱は「怪物」になってしまった。
それは、狡噛慎也の『呪い』である。
狡噛が朱に残した手紙。あの手紙で狡噛は「常守朱の正義は正しい」と言い切った。
それが狡噛慎也常守朱にかけた『呪い』である。
狡噛が「常守朱の正義は正しい」と言い切ったことで、朱は「自分の正義が正しいと常に証明し続けなければならない」という『業』を背負うことになった。
シビュラシステムが正しいとは思えない。だがこの世界にシビュラは必要である。ならば正義は誰が決めるのか…。
シビュラシステムの真実を知り、システムが進化する過程で有用な人間としてシステムに求められながらも、システムに抗うことを朱は選ぶ。
私の正義は私が決める――。常守朱は正義の在処を己の中に求めたのである。
故に朱は自分の正義が正しいと常に証明し続けなければならず、そしてその『業』を背負った瞬間から「怪物」となったのである。
「怪物」狡噛慎也が生み出した、おそらくは最大の「怪物」――それが常守朱=2期主人公なのだ。

生み出され続ける「怪物」たち。戦い続ける「怪物」たち。

1期では狡噛と槙島という「怪物」が物語から消え、そこで綺麗に終わったはずだった。
だが2期へ繋がる新編集版では、その「怪物」の手によって新たな「怪物」常守朱が生み出された。
つまり、サイコパスという物語は、「怪物」を生み出し続け、その「怪物」同士が戦い、淘汰される物語なのである。
ということは、2期ももちろん「怪物」と「怪物」が戦う物語だろう。それと同時に、狡噛慎也の呪いによって『業』を背負わされた朱が「自分の正義が正しいと常に証明し続けなければならない」物語でもあるだろう。
そしてふと考えるのだ。消えた「怪物」はどこへ行ったのだろうかと…。
今のところ2期に狡噛さんが出る気配など全くない(故に私は思いの外ヘコんでいる)。
しかし、シビュラ社会という蟲毒の壷から出て行った「怪物」はもう戦う必要がないのか? 彼もまた槙島聖護の呪いによって、死ぬまで戦い続けなければならない、すなわち「安息なき生」という業を背負っているのではないだろうか…そんな気がするのだ。



ちなみに新編集版の感想はツイッター#pp_animeタグで実況した他にも語っておりますので、興味を持たれましたらそちらもどうぞ…。


しかしね…本当にヘコんでいるのだよ。予想していたとはいえ、2期に全く狡噛さんの姿が影も形がないことに思った以上にヘコんで、これはもうギノとか朱ニキさんとかに楽しみポイント見つけるしかないじゃない! そうやって劇場版の特報待とうじゃない! って状態です。
2期が1期から生まれた「怪物」常守朱の物語だとすると、劇場版は物語から消えた「怪物」狡噛慎也の結末の物語であってほしい部分があるのですが…………お願い、もう1回狡噛さんを見せて! 三十路の狡噛さんを見せて!!(2期は1期の1年半後=狡噛・宜野座は30歳になっている)

PSYCHO-PASS 監視官 狡噛慎也 1 (BLADE COMICS)

PSYCHO-PASS 監視官 狡噛慎也 1 (BLADE COMICS)

コミックガーデンの監視官狡噛っていう楽しみはありますが、狡噛ファンは2期をどう楽しめばいいのだろうかと…。
…いやギノとか朱ニキさんとか青柳さんとか個人的には色々と楽しみな部分はあるんですけど、狡噛さんが出ないという喪失感をどう埋めたらいいんだ…と。


そんなわけで2期で毎回感想ブログが復活するのかはかなり微妙なのですが、ツイッター*1で実況したり語ったりはしますので、そちらもよろしくお願いします。

*1:@allred_risa